ままの川  松岡検校、菊岡検校作曲   宮腰夢蝶作詞



  幕末の箏、三弦は情痴的で艶麗な曲が多く作られた。

  この曲は艶の中にも気品を失わず人生を悟った幽玄な面も感じられ、

  人生を川にたとえた歌で「川モノ」と言われている。

  作詞者の名、夢蝶が歌詞に読み込まれている「夢てふ里に住みながら〜」は

  義太夫「壷坂霊験記」にそのまま用いられている。



  

  夢がうき世か うき世が夢か 夢てふ里に住みながら 人めは恋とおもひ川 

  うそも情も ただ口さきで 一夜流れの 妹背の川も その水くさき心から

  
手事

  よその香を えりそでぐちに つけてかよはば なんのまあ

  かはいかはいの からすの声に さめてくやしさ あぁ ままの川



  

  夢が現実となったのがこの世なのか、それともこの世が夢なのか

  世間から夢の世界のように思われている遊郭に住んでいる私は

  はた目には客と恋をしていると映るのか・・いや、そうではない

  嘘も恋情も口先だけ、一夜限りの夫婦でしかないと思い、

  距離をおいて決して本気にならない。

  他の女の残り香を 衿や袖口に付けたまま通ってくることも平気で、

  客の「かわいい、かわいい」と言う口先だけの言葉を聞いても

  どうして信用できましょうか。明け方に 烏が「カアカア」鳴いて一夜限りの

  夫婦関係が終ると 夢から覚めるように かりそめの恋からも覚め、

  悔しさだけが残り、どうにでもなれと言う気持ちになるのです。



  

  「壷坂霊験記」は明治に入ってからの新作浄瑠璃で、盲目の夫

  沢市の眼を治そうと、妻のお里が壷坂寺の観音様に願をかけ、

  一心の祈りが通じて夫の目が見えるようになったという夫婦愛の物語。

  「三つ違いの兄さんと、沿うて暮らしているうちに・・・」でよく知られている。

  奈良の高取町の壷坂寺(南法華寺)を舞台に繰り広げられた名作。

  また浪曲にも取り入れられ「妻は夫を慕いつつ、夫は妻をいたわりつ・・・」

  という名文句は有名。
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