夜々の星  光崎検校作曲  皆川淇園作歌



   歌は京都の有名な漢学者皆川淇園によって作られました。

   前歌 マクラ 手事 中チラシ チラシ 終唄からなり、

   手事には砧地が使われています。
   

   

   玉櫛笥 ふたたび三度思う事 思うがままに書き付けて見すれど

   海女のかずきして 苅るちょう底のみるめにも ふれぬをいたみ頼みにし

   筆にさえだに恥ずかしの 軒のしのぶに消えやすき 露の身にしもならまほし

   ならまく星の光すら 

   
(手事)

   絶えてあやなくなるまでも 八夜九夜と思いあかし 雲井を眺めすべをなみ

   袖の雫に堰き入るる 硯の海に玉や沈めん


   

   
たまくしげ ふたたびみたびおもうこと おもうがままに かきつけてみすれど

   あまのかずきして かるちょうそこの みるめにも ふれぬをいたみ たのみにし

   ふでにさえだに はずかしの のきのしのぶに きえやすき つゆのみにしも 

   ならまほし ならまくほしの ひかりすら

   (手事)

   たえてあやなくなるまでも やよここのよとおもいあかし くもいをながめすべをなみ

   そでのしずくに せきいる すずりのうみに たまやしずめん


   

   
ふたたび三度思う事を思うままに書き付けて見せるが 房前卿は海女に

   水へくぐって刈れといわれて、底なる みるめなる見る目に触れない事を痛み悲しみ

   頼みとした筆にさえも恥ずかしい思いをした。これでは軒の葱に宿った露の

   消えやすい、はかない身になってほしくもなる。ならまくほしい 星の光すら絶えて、

   暗くなるまで、八夜九夜と思い明かして 雲のある空を眺めて何するすべもなくなるのである。

   袖に流れる涙の雫をせき入れる硯の海に 面向不背の玉章をしたためて彼の人に送ろう。


    

   謡曲「海士(あま)」は淡海公と讃岐国志度浦の海士との間に生まれた藤原房前大臣は

   母の海士の幽霊から、竜宮に行って面公不背(めんこうふはい)の玉を

   乳房に隠して持ち帰った話を聞くと言う筋です。

   この謡曲をにおわせて片思いに悩む女の悩みをうたったものです。


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